『封印作品の闇』


昨日の予告通り、安藤健二封印作品の闇』(だいわ文庫)に
ついて書きます。と言っても、たいした事は書けません。
あくまで自分が感じた事のメモ代わりというところでしょうか。
後、ネタバレになってしまう部分が出てきますので
未読の方はご注意を。




封印作品の闇―キャンディ・キャンディからオバQまで (だいわ文庫)

封印作品の闇―キャンディ・キャンディからオバQまで (だいわ文庫)


取り上げられているのは、「キャンディ・キャンディ
「サンダーマスク」、「ジャングル黒べえ」、「オバケのQ太郎」の4作品。


キャンディ・キャンディ


書店に勤めていた頃、お客様からの問い合わせがあり、ネットで調べた時に
原作者と作画者が裁判をしている、というのを知りましたが
細かい内容までは知らなかった。


事の発端は作画者のいがらしゆみこが、原作者の水木杏子に無断で
キャンディ・キャンディ」関連の商品化を出していたというもの。
水木は、いがらしと出版社の複製原画の販売差し止めを求めて
裁判を起こしたが、いがらしは「水木に著作権はない」という裁判を起こす。


争点が変わってしまったために、話がこじれ始める。
結局、裁判は最高裁判決まで行き、いがらしの訴えが全て退けられたのだが
この本を読む限り、当然だと思う。
(最も、著者が取材できたのは原作者の水木のみ。いがらし側は
「記事の全文を印刷前にチェックさせて欲しい」と言ってきたので
取材を断念している。そのため、どうしても水木側の言葉の方が多い
というのがあるのだが)


いがらしが「何で(キャンディ・キャンディの)自分の絵まで
水木に著作権を主張されなければならないのか」と言うのも
分からないでもないけど、それでは筋が通らない。
漫画は絵だけが上手くてもダメだし、話だけが面白くてもダメ。
絵と話が両方、上手く組み合わされていないとヒットなんかしない。


本文中に引用されているいがらしの発言として
「読者は自分の絵が好きで、キャンディ・キャンディを読んでくれている」
という趣旨のものがありましたが、一面では正しくても
やはり全面では正しくない。絵は良いけど、ストーリーは駄目なんて
いうマンガを読もうなんて誰も思わないはず。

だから、「キャンディ・キャンディ」のキャラの絵を使う以上
そこには原作者の著作権が発生するのは当然でしょう。


気になるのは、何でいがらしが原作者の考えを無視して
“暴走”するかのように「キャンディ・キャンディ」の商品化を進めたのか
という事。
実は、複製原画だけでなく色々なものを、原作者に無断で商品化していた。
キャンディ・キャンディ」以降、いがらしがヒットに恵まれなかったから?
という可能性が示されているが、やっぱりそうなのだろうか?
大ヒット作が生み出した大金に狂ってしまったのだろうか?


「サンダーマスク」


第19話「サンダーマスク発狂」(タイトルがもう凄い)に登場する
シンナーマンに、シンナー中毒者の脳みそを入れ替えられた
サンダーマスクが街中を危ない目をして徘徊する
という凄まじい内容や
第21話「死の灰でくたばれ」に登場する「放射能怪人 ゲンシロン」の
出身地が茨城県東海村という設定があるため封印された
と思っていたのですが、意外や意外?それらが原因ではなかったようだ。


キーポイントとなったのは、作品のソフト化や衛星放送での放映という
放送当時(70年代)には一般的ではなかった権利問題。
そして、ある会社が一方的に権利を主張してフィルムを隠し持っており
その会社がソフト化すれば、共同制作した会社が裁判を起こすため
という意外な事実が浮かび上がる。
今までのものとは、その理由が全く異なる“封印作品”だ。


ジャングル黒べえ


藤子・F・不二雄の作品。実はこの本を読むまで封印されている事を知らず
藤子作品で封印!?と驚いた。


きっかけは「オバケのQ太郎」の中の「国際オバケ連合」という話。
この中に出てくるアフリカのお化けの姿と「バケ食いお化け」という言葉が
人食い人種を思わせ、姿も類型的で黒人差別である、として
「黒人差別を考える会」から抗議を受けた。
それに対して、出版社が該当の「オバケのQ太郎」と共に
回収したのが「ジャングル黒べえ」。
著者は「ジャングル黒べえ」が本当に抗議を受けたのか、その痕跡を
丹念に追いますが、結局、それらしいものは見当たらず。
前作『封印作品の謎』(だいわ文庫)で取り上げられていた
手塚治虫ブラックジャックと同じような封印のされ方だ。


「黒人差別を考える会」は、あの「ちびくろサンボ」を
絶版に追いやった市民団体・・・と言っても
発足者は有田一家の親子3人。
ワシントンポストに載った「日本では黒人差別的な人形やマネキンがまだある」
という記事を読み、「黒人差別をなくすために」結成されたようだが
表面だけ見て、それらしい絵や物に抗議した、
“善良な市民”気取りの、実は何も考えてない人間という気がしてならない。
そして、そんな何も考えていない人間の抗議を易々と受け入れて
絵やものを引き下げてしまった企業は、いくら「差別ではない」と
言ったところで、その言葉には何の説得力も感じられない。*1



オバケのQ太郎


上記の理由により抗議はあったが、全ての単行本が絶版になっている理由は?
いや、まさか「オバケのQ太郎」までが“封印作品”だなんて・・・
ジャングル黒べえ」同様、この本を読むまで知らなかった。


藤子不二雄の二人だけではなく、石ノ森章太郎つのだじろう等が
作画に関わっていた事で著作権が複雑になっているのでは?
という理由などを著者は丹念に追っていくが
どうも違うらしいという事が分かる。
そして、1987年のコンビ解散が一つの鍵となっていた事に
辿り着く・・・
文庫化のためにつけられた新章で、“封印”されてしまった
真相の一端が明らかになっているが、結局はこれも
キャンディ・キャンディ」と同じようなものだった。
しかも、質が悪いのは、それが作者たちではなく
その周りの人間達が原因というのが切なくなる。*2


というわけで長々と拙い文章で書いてしまった。
もし、未読の方で興味を持ったならば、是非とも『封印作品の闇』を
読んで欲しい。丹念な取材で“封印”の過程を追っていく様は
非常にスリリングで読み応えがあるのでお薦め。

*1:今年から刊行が始まった「藤子・F・不二雄全集」で復刊が決まったそうだ。めでたい。

*2:ジャングル黒べえ」同様、「藤子・F・不二雄全集」で復刊。現在、刊行中